■ うつ病は性格の問題だから治らないだろう、と
思いこんでいた「新米」精神科医時代・・・
私が精神科医という職業を選んだ時には、精神障害というのは性格の問題が大きく、薬や精神療法で治るとは、正直、実感できずにいました。研修医になりたての頃、その無力感から「やめてしまおうか」と思ったことさえありました。ところが2年目くらいに自分の考え違いに気づかされたのです。上司に恵まれたこと、そして優秀な先生の診察を見せてもらえる機会があったこと、そして何にもまして薬や精神療法によって患者さんが治っていく姿を目の当たりにしたことが大きかったように思います。
■ 治療を開始しても、なかなか良くならない患者さん
主治医を担当するようになってすぐのことだったでしょうか。失恋をきっかけにリストカットや薬物の過量服薬をくり返していた、ある女性患者を担当することに。いわゆる「見捨てられ不安」がとても強く、それまで数ヵ所の医療機関で「パーソナリティ障害」と診断されていましたが、私はうつ病を疑っていました。薬をいろいろ試してみたもののあまり効かず、臨床心理士によるカウンセリングも同時に行われていました。 症状があまり改善しないまま、「焦らずに治療を続けましょう」という状態が何ヶ月か続いたでしょうか。家族や周囲からも「性格の問題に薬を使っても治らない、もっと本質的な心の根本を治してほしい」と訴えられ、自分の診療方針に対する自信がゆらぐこともありました。抗うつ薬を変えるのも、もう6回目。「今回こそは」と願いながら、ある抗うつ薬を試しました。するとどうでしょう。劇的に良くなっていったのです。その後、彼女は職場復帰するまでに回復し、現在は、結婚して立派にお子さんも育てています。
■ 薬の効果を実感したことが、私自身に大きな影響を及ぼした
薬の力をこの目で確認して、患者さんに薬の説明をきちんと行い理解を深めてもらう大切さを改めて考えさせられるようになりました。あのとき薬の手ごたえを感じていなかったら・・・。「若者のうつ病は性格の問題だから」などと考えて、薬を変えたり、量を増やすことをためらう精神科医になっていたかもしれません。 後になってわかったのですが、若者のうつ病に対して、安易に「パーソナリティ障害」の診断がなされすぎることがあるようです。実際、パーソナリティ研究の世界的第一人者であるShea博士からも、本来そう簡単には治らないはずの「パーソナリティ障害」と診断された患者さんの半数近くが、1年後に診断基準を満たさなくなってしまう、という矛盾した結果が報告されています。また、「パーソナリティ障害」と診断された患者の半分は過剰診断であることが抗うつ薬の使用により証明されたと、うつ病研究の大家であるAkiscal博士は報告しています。誰だってうつになれば、一時的に性格の悪い面が目立ってしまうのですね。うつ病にかかっている時は普段の状態ではないと十分認識し、ましてや性格だけの問題と軽々に判断してはいけないなと感じています。 うつ病の治療は薬だけですべてが解決するとは思いませんし、その使用には慎重さも大切です。しかし一方で、適切な薬の使用で救われる人もいっぱいいる・・・。今振り返ってみると、あの経験が私に薬物の重要性を教えてくれたように思うのです。 |