このガイドラインは米国で作成されたものであり、わが国で市販されていない抗うつ薬も多数含まれているので、このガイドラインをそのままわが国に適用できないところもあるが、基本的な考え方は共通している。 また、本ガイドラインは1993年に作られたものであり、2002年には改訂されている。近々その翻訳も出版される予定である。
III. 治療指針のまとめ





■A.指針に付記した符号について 各指針の後には、その信頼度などについて3段階に分類する符号[I]〜[III]が記してある。それぞれの項に記載される病態に対する治療効果を、臨床的な信頼度に応じて3つの段階に分類した。
- 臨床的な根拠が明確であるもの
- 確信度はやや劣るが信頼に足るもの
- 個々の患者の状態によっては勧められる選択
■B.一般的事項 大うつ病患者には、各人に最も適する治療プログラムが必要である。アルコールや物質依存と乱用を含む精神疾患または身体的疾患の併存があれば評価し、適切な治療を加える。自殺念慮あるいは企図の存在と程度は、治療期間を通じて治療法とその強度を決定するための重要な因子である。大うつ病に有効な治療法としては精神療法、抗うつ薬の投与、ECTが挙げられる[I]。 多くの患者にとっては、抗うつ薬の投与と精神療法的対応か精神療法の併用が非常に有効である[II]。 軽症から中等度の患者には、精神療法的対応もしくは精神療法のみで治療をすることもあるが、はっきりした効果がない場合は、そのまま長期にわたって続けることなく抗うつ薬を試すべきである(薬物療法の適応がある場合に限る)[II]。 精神科医はまた、治療の場を決めなければならない。外来治療に従えない患者、自傷他害の恐れのある患者、心理社会的サポートが得にくい患者、物質乱用などのため解毒や離脱が必要な患者、他の精神疾患や身体的疾患のため外来治療では危険を伴うもの、その他治療を安全に行うために入院が必要と判断される患者には、入院治療を検討する[I]。
■C.急性期 心理社会的治療プログラムには、精神療法的対応といったものから数々の系統的精神療法までが含まれる。治療者は、患者にとって最も適する方法を選択する。さまざまな精神療法の効果や適応の違いについては、正式な研究に基づく共通の認識はない。 最近、人間関係上の葛藤や役割の変化を経験した患者には対人関係療法が適するかもしれない[II]。 認知療法は、患者が自分自身や周囲に対する認知の歪みを正すための系統的な指導を望み、それに耐えられる場合には適応であろう[II]。 精神力動的精神療法や精神分析は、慢性的に劣等感にさいなまれている患者、自分に対し過大な期待を抱いている患者、慢性的に対人関係がうまくいかない患者、幼少時の喪失体験や分離体験が未解決の患者らに対し、彼らに内省する意志があって精神療法への意欲があり、しかも生活環境が安定している場合には用いられることがある[II]。 配偶者を含む家族療法、行動療法、集団療法などもうつ病の治療として行われることがある[II]。 大うつ病にアルコールや物質乱用/併存が合併している場合は、ともに治療の対象となる[I]。 身体的治療プログラムとしては、抗うつ薬の投与とECTがある[I]。 抗うつ薬は数多くあるが、本文のガイドラインに記したような原則により、その中の1つが選択される。後述するような特定の状況を除いて、MAO阻害薬は、第一選択薬としては選ばない方がよい[I]。 非定型のうつ病は、三環系抗うつ薬よりもMAO阻害薬によく反応する。SSRIが有効という報告も散見する。MAO阻害薬を他の抗うつ薬に先んじて用いる場合は、生じうる副作用の危険性と利益について評価しておく[II]。 循環器系の障害や抗コリン作用のある薬物が禁忌となる状態など、身体的問題のある患者には、三環系抗うつ薬よりもブプロピオン※、フルオキセチン※、サートラリン※、トラゾドン(※日本では未発売)またはECTによる治療のほうが適している[I]。 精神病像を伴ううつ病には、たいてい抗うつ薬と抗精神病薬の併用[I]かECT[I]を行い、ときにはそれらに代わるものとしてアモキサピンの投与も行う[II]。 拒食のため栄養障害を生じている場合、自殺の危険性が非常に高い場合、重症の離脱症状がある場合は、薬物療法よりECTを考慮する[I]。 鎮静作用のある睡眠導入剤の投与とアルコールや薬物使用障害の合併に対しては、抗うつ薬投与期間中の観察を怠らないようにする。 適量の抗うつ薬を6−8週間続けたにもかかわらず反応しない患者は、薬物抵抗性があるのかも知れない。2種類の抗うつ薬を十分量試して反応がない場合に、初めて薬物抵抗性と判断する立場もある。いずれにせよ、薬物抵抗性と診断する前には身体的、精神科的な状態評価が正しいかどうかを再検討する。 抗うつ薬の6−8週間の投与によっても反応が得られず薬物抵抗性と判断される患者には、作用機序の異なるMAO阻害薬以外の薬物を試みる[II]か、投与中の抗うつ薬にリチウム[II]、甲状腺ホルモン[II]、または他の抗うつ薬を併用する。他の選択肢としては、MAO阻害薬か抗けいれん薬への置き換え[II]、または精神刺激薬の併用[III]を行う。 ECTは中等度から重症のうつ病、メランコリー型のうつ病に非常に有効とされ、また精神病像を伴ううつ病、緊張病性昏迷、自殺の恐れが強い患者、拒食のある患者に対しては、第一選択として考慮するべきである[I]。中等度から重症のうつ病で適切な薬物療法を行ったにも関らず、反応のみられなかった症例に対しても推奨される[I]。薬物療法を長期にわたって試しつづけるよりも前に、治療者がECTについて患者と話し合っておくとよい。
■D.継続療法 初発の大うつ病エピソードで、合併症がなく、抗うつ薬により良好な結果を得た場合は、寛解に至った後もその治療域の量を少なくとも16−20週は適切な精神療法とともに継続する[I]。
■E.維持期 相当に重症の抑うつ状態が頻回に繰り返される単極性のうつ病では、長期間にわたって最大量を投与したほうがよい。その必要性が生涯にわたる症例もある[II]。 維持療法で長期間の寛解状態が得られた場合には、治療者と患者が薬物療法の中止の是非について相談してもよいだろう[II]。 維持量として十分な抗うつ薬を規則正しく服用しているうつ病患者に、抑うつ状態が再発してしまった場合は、リチウムへの置き換えもしくは抗うつ薬との併用が行われる[II]。 再発には心理的因子や人間関係が大きく寄与することが多く、維持期には精神療法が非常に有用である。具体的にどの治療法を、どのくらいの頻度・期間にわたって行うかは、本文で述べた数々の要因を基に策定する[II]。
注)本ガイドラインには、日本国内未承認の薬剤や治療法に関する解説が含まれます。
【出典】 American Psychiatric Association:Practice Guideline for Major Depressive Disorder in Adults,1993 (日本精神神経学会(監訳):米国精神医学会治療ガイドライン−大うつ病性障害,医学書院,2000) |